京都市の人口は150万人くらいですが、近年では観光客が毎年5000万人ほども来ます。そのために花見や紅葉の頃には、有名な社寺は観光客でいっぱいになり、ときには身動きも取れないほどになってしまいます。この現象はオーバーツーリズムといわれます。

これは世界的な傾向で、ベネチアやバルセロナのような人気観光都市ではどこでも観光客による「公害」に悩まされています。祇園では、舞妓さんや芸妓さんが頻繁にカメラを向けられるのが残念、とニュースにもなりました。地元住民にとっては「なんでこんなに来るんかいな?」というありがた迷惑な感じ。「こんでええねん、なんもないねん」という京都に生まれ育った若者の言葉も聞いたことがあります。

数十年前は中国からの観光客は日本にはほとんど来なかったのですが、今では中国人の観光客が経済的にメリットになるといわれるようになりました。韓国や台湾、そのほかタイなどの東南アジアからもお客さんがたくさん来てくれるようになりました。新興国の経済成長のほか、円安や格安のLCC航空会社の登場なども理由になっているのでしょう。

私は京都は素晴らしい都市だと思っているので、いろんな国から京都に訪れてくれるのは大歓迎、という立場です。日本の古都で滞在してもらい、深く日本のことを知っていただければ、日本を好きになり、ファンになり、これからもいいお付き合いをしていただけるような気がするし、さらには平和でのどかな国際社会につながってゆくだろうから。

しかし、オーバーツーリズムは京都に昔から住んでいる住民だけでなく、旅行客自身にとってもしんどい体験でしょう。昨秋、永観堂禅林寺の前を通りかかったとき、写真を一枚撮りました。混雑していて、一枚取るだけで精一杯でした。写真を見返してみると、混雑していても、紅葉が見事なのはよくわかります。しかし遠いところからここに来た旅行客も息苦しいのではないでしょうか。ここでスーツケースを転して移動しようものなら、もう何しに来たのかわからないほど苦痛に感じることもあるかもしれません。

秋の永観堂禅林寺

オーバーツーリズムの緩和のため、紅葉ではなく青もみじも結構ですよ、というように時期をずらすことによって観光客の波を分散させようというのはいいアイディアだと思います。実際、黄緑色のカエデの葉っぱは清涼感があります。秋に京都に来たとしても、観光客に知られてない小さないい雰囲気の社寺もあります。

オーバーツーリズムによる市バスの状況はかなり深刻です。京都駅から銀閣寺まで行く市バスは、もっとも混んでいるときには一両あたり約150人ほどにもなります。定員は70人だからその倍。3月の桜見や11月の紅葉狩りような繁忙期だけでなく、一年を通じて混雑するようになってきたそうです。市バスではなく地下鉄も利用してもらって分散するため、京都市は一部で無料の地下鉄振替券も提供してきました。どこまで旅行者が利用してくれるかはわかりませんが、迎える方も苦心しています。

ところがこの冬、違う風が吹きました。中国を震源地とする新型コロナウイルス(COVID-19)です。感染すると死に至ることもあるこのウイルスは、国際的な公衆衛生上の脅威になっています。中国人にとっては一番おめでたい春節の期間、国内外を旅行する中国人も増えていたのですが、中国政府によって、旅行は禁止となっただけでなく、休暇期間は延長され、外出まで制限されてしまったのです。

この影響で、京都の観光地から観光客が減少しました。そもそも冬には京都も観光客は少なく、冬にも観光客が訪れるようになったのは最近の話です。だから前に戻っただけという話も聞きます。よっぽど中国からたくさんの観光客が来てくれていたのでしょう。ポジティブに捉えれば、日本人が京都を気楽に旅するチャンスでもあります。

ただ、新型コロナウィルスはまだ収束していません。公衆衛生上のリスクを軽減するにはマスクをしたり人が過密しているところに出かけないなど、個人にできることもたくさんあります。はやく普段の日常を取り戻したいものです。

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